平成28年度第31回海洋化学学術賞

平成28年度第31回海洋化学学術賞は,平成28年4月23日(土)京都大学楽友会館にて,角皆潤氏に授与されました.(アルバム)

角皆潤氏

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所属・職:名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻・教授

略歴:
1991年3月 東京大学理学部化学科卒業
1996年3月 東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了,博士号(理学)取得
1996年4月 日本学術振興会特別研究員(東京大学理学部)
1997年3月 科学技術振興事業団研究員(名古屋大学大気水圏科学研究所)
1999年4月 東京工業大学大学院総合理工学研究科講師
2000年4月 北海道大学大学院理学研究科助教授(のちに准教授)
2012年4月 名古屋大学大学院環境学研究科教授,現在に至る

受賞題目:高感度安定同位体質量分析に基づく海洋地球化学の革新

推薦理由:角皆潤氏は,軽元素安定同位体比を中心とした新分析法を開発し,それらを自然の観測に広く適用し,その有用性を実証した.主な成果は以下のようである.海水中のCH4の13C/12C比定量を実現した.CH4代謝に際してその13C/12C比が大きく変動すること(同位体分別)に着目して,CH4代謝過程の有無やその代謝量の定量を実現した.この分析技術をCH4以外の微量成分の同位体比定量へ応用した.さらにCO2やNO3–の酸素安定同位体比に関して,従来一般的だった18O/16O比だけで無く17O/16O比も含めた高感度測定に成功した.すなわち,安定同位体比を従来からの起源の指標として活用する以外に,同位体分別係数を利用した挙動(被分解過程の有無や種類など)の指標としての活用,さらに,同位体分別が補正可能な3つの酸素同位体の組成を利用することで物質循環速度(硝化速度や新生産速度など)の定量を実現した.特に後者は,従来の疑似現場環境下での培養に依存しない物質循環速度定量法であり,安定同位体比の応用を大きく広げる画期的成果である.以上の研究成果は,欧文誌に掲載された原著論文だけで100本を超え,総引用数は3400を超えている.海洋化学分野では出色の引用数である.また深海調査船用の熱水採取装置などの海洋観測機器の開発にも成功している.さらに多数の学生,ポスドクの指導を行い,人材育成にも貢献している.このような実績から判断して,角皆潤氏は海洋化学学術賞にふさわしいと確信し,ここに推薦する.