令和2年度第4回海洋化学奨励賞

令和2年度第4回海洋化学奨励賞は,令和2年11月14日(土)京都大学楽友会館にて,以下の各氏に授与されました.

杉江恒二氏(U40)

所属・職:国立研究開発法人海洋研究開発機構技術研究員

略歴:
2004年 東北大学農学部卒業
2006年 東北大学大学院農学研究科博士課程前期修了
2009年 北海道大学大学院環境科学院博士課程後期修了
2009年 財団法人電力中央研究所環境科学研究所特別契約研究員
2012年 北海道大学大学院地球環境科学研究院CREST博士研究員
2014年 独立行政法人海洋研究開発機構技術研究員(改組を経て現在に至る)

受賞題目:海洋化学環境と植物プランクトンの動態応答に関する研究

推薦理由:杉江恒二氏は,地球温暖化に伴う水温上昇,海洋酸性化,および物理・化学成分との複合環境変化における相互作用が,植物プランクトンを通じた海洋生元素動態に及ぼす影響の解明に注力してきた.溶存CO2の濃度変化が,様々な物理・化学成分と相互作用しながら有機炭素を含む生元素循環や植物プランクトンのサイズ組成に影響を及ぼすことを世界に先駆けて見出した.海水中の温度,塩分,CO2などの条件を高精度に制御した培養実験を駆使するなど,高い化学・生物分析技術を有し,定量的に見積もられた独創的な生物地球化学的研究業績は,国際学会等での評価も高い.


岩本洋子氏(U40)

所属・職:広島大学大学院統合生命科学研究科准教授

略歴:
2004年3月 東京理科大学理学部第一部物理学科卒業
2006年3月 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修士課程修了
2009年3月 同博士課程修了,博士(理学)
2009年4月 名古屋大学高等研究院研究員
2011年10月 Institute of Atmospheric Science and Climate, National Research Council of Italy 在外研究員
2012年4月 金沢大学環日本海域環境研究センター博士研究員
2014年4月 東京理科大学理学部第一部物理学科嘱託助教
2017年2月 広島大学大学院生物圏科学研究科助教
2019年4月 広島大学大学院統合生命科学研究科准教授(現在に至る)

受賞題目:海洋大気エアロゾルの沈着・生成とその気候影響に関する研究

推薦理由:岩本洋子氏は,エアロゾルの沈着に関して,海水懸濁粒子の個別粒子分析から鉱物粒子を同定する手法を開発し,それを応用した北太平洋・縁辺海におけるマッピングデータの構築や,鉱物エアロゾル沈着がもたらす施肥効果による海洋炭素吸収の推定を行った.エアロゾルの生成に関して,大気中の海洋生物起源硫黄や,飛沫から生成する海塩粒子や有機物粒子の動態や雲核能力について研究を展開した.岩本氏は,日本大気化学会,日本エアロゾル学会,SOLAS(Surface Ocean and Lower Atmosphere Study)小委員会などで委員を務めるなど,学会組織運営や研究者のネットワークづくりにも貢献している.


辻阪誠氏(U30)

所属・職:株式会社ヴァリューズ

略歴:
2015年3月 大阪教育大学教育学部教養学科卒業
2017年3月 京都大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了
2020年3月 京都大学大学院理学研究科化学専攻博士後期課程指導認定,京大博士(理)
2020年4月 株式会社ヴァリューズ (現在に至る)

受賞題目:堆積物中モリブデンおよびタングステン安定同位体比分析法の開発と日本海古海洋環境の復元

推薦理由:辻阪誠氏は,地質試料中MoとWの濃度および安定同位体比の分析法を開発し,本法を日本海堆積物コアに適用し,これまで報告例がなかった日本海堆積物中のW濃度およびMo, W同位体比の深度分布を明らかにした.この結果に基づいて日本海海底における過去5万年の酸化還元状態と物質供給の変化を明らかにした.この研究は,MoとWの濃度および同位体比を組み合わせることで,古海洋環境のより詳細な推定が可能であることを示した.