令和3年度第5回海洋化学奨励賞

令和3年度第5回海洋化学奨励賞は,令和3年11月13日(土)京都ホテルオークラにて,以下の各氏に授与されました.

柏原輝彦氏(U40)

所属・職:海洋研究開発機構海底資源センター・副主任研究員

略歴:
2006年3月 東京理科大学理学部応用化学科卒業
2008年3月 東京理科大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了
2011年3月 広島大学大学院理学研究科博士課程後期修了
2011年4月 JAMSTEC地球内部ダイナミクス領域ポストドクトラル研究員
2014年12月 JAMSTEC次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム特任研究員
2016年4月 JAMSTEC海底資源研究開発センター研究員
2016年7月 2018年12月 University of Alberta visiting scientist
2020年4月 JAMSTEC海底資源センター副主任研究員(現在に至る)

受賞題目:海底堆積物・鉱物への元素濃集メカニズムの解明

推薦理由:柏原輝彦氏は,水-鉱物界面の地球化学をベースに,鉄マンガンクラスト・団塊やレアアース泥などの海底鉱物・堆積物が海水から元素を濃集する反応メカニズムを分子レベルで追求してきた.鉄マンガン酸化物へのMo, W, Te, Ptなどの吸着構造と濃集メカニズムをあきらかにした.鉱物表面でのMo, Wの吸着構造が海水-鉱物間の同位体分別も規定することをあきらかにした.さらに,レアアース泥におけるREEのホストはアパタイトであり,アパタイトには熱水性水酸化鉄に吸着したリンに由来する自生起源と表層海洋から供給される生物起源の二種類があることをあきらかにした.


栗栖美菜子氏(U30)

所属・職:海洋研究開発機構地球表層システム研究センター・Young Research Fellow

略歴:
2015年 東京大学理学部地球惑星環境学科卒業
2017年 東京大学大学院理学系研究科修士課程修了
2020年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了
2020年 海洋研究開発機構地球表層システム研究センターYoung Research Fellow(現在に至る)

受賞題目:鉄安定同位体比を用いた、エアロゾル中の起源の異なる鉄の海洋表層への寄与推定に関する研究

推薦理由:栗栖美菜子氏は,人為的な燃焼により発生するエアロゾルの鉄安定同位体分析を行い,燃焼起源鉄が鉱物塵中の鉄に対して最大4‰程度低いδ56Feを示し,両者を区別できることを初めてあきらかにした.さらに,δ56Feの違いをもとにして,西部北太平洋域で採取されたエアロゾル試料,表層海水試料を分析し,鉄の起源推定を行った.その結果,洋上のエアロゾル中でも燃焼起源鉄の寄与が大きいことや,表層海水にはエアロゾルに加えて中層水など他の供給源の影響も重要であることを示唆した.


黄国宏氏(U30)

所属・職:東京大学大気海洋研究所・特任研究員

略歴:
2013年6月 英国ケンブリッジ大学科学学部自然科学学科卒業
2016年3月 東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻修士課程修了
2019年3月 東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻博士課程修了,博士(環境学)学位取得
2019年4月 東京大学大気海洋研究所特任研究員(現在に至る)
受賞題目:海水中の銅の有機配位子の分布およびその循環に関する研究

推薦理由:黄国宏氏は,海水中の銅の有機配位子濃度と錯体の条件安定定数を求めるため,既存のボルタンメトリー法を改良した.この方法を実試料に適用し,岩手県大槌湾,東シナ海,北太平洋亜寒帯における銅有機配位子の分布をあきらかにした.その結果,縁辺海と外洋の表層水に2種類の有機配位子が存在し,それらの濃度は全Cu濃度を上回っていることを示した.さらに,北太平洋溶存酸素極小層でアンモニアを窒素源として利用するバクテリアが非常に強い有機配位子を放出しCuの取り込みに利用している可能性を示した.