平成22年度第25回海洋化学学術賞

平成22年度第25回海洋化学学術賞は,平成22年4月28日(水)京都大学百周年時計台記念館にて,鈴木款氏に授与されました.(アルバム)

鈴木 款氏

2010_Suzuki

所属・職: 静岡大学・創造科学技術大学院・教授

略歴:
昭和47年3月 静岡大学工学部工業化学科卒業
昭和49年10月 気象庁気象研究所地球化学研究部研究官
昭和61年4月 同上 主任研究
平成5年4月 静岡大学理学部地球科学地球環境学講座助教授
平成8年4月 静岡大学理学部生物地球環境科学科生物進化化学講座教授
平成18年4月 静岡大学創造科学技術大学院教授

推薦理由:大気-海洋系における炭素循環は,地球生物圏の動態の中心課題である.しかし溶存有機物の研究は,1990年初めまでその測定法を含めて世界的に研究が進んでいなかった.鈴木氏は,高温触媒燃焼酸化法を改良して精力的に観測・分析を行い,この分野の研究に大きなインパクトを与えた.本法は,さらに改良され世界的推奨方法となった.鈴木氏は,溶存有機炭素の実体に関する研究を精力的に進展させた.さまざまな海洋環境における有機物の分解と生産のしくみを主要生元素の動態から明らかにする研究を推進した.研究対象は,サンゴ礁海域から,熱帯マングローブ沿岸域,日本近海の深海に至る広範な海域などで,有機物生産の地球環境への寄与に関する研究を進めた.
サンゴ礁では,代謝活動による粘液等で放出される溶存有機物はサンゴを始めとする底生生物により利用される.鈴木氏は,溶存有機物の分解速度と外洋への輸送量を研究し,従来考えられていた以上に有機物が残存していることによりCO2の吸収域になるサンゴ礁の存在を明らかにした.この一連の研究のなか,海水中に溶存しているカルシウムの正確な分析は困難であったが,高精度の光度適定自動分析法を実用化した.サンゴ礁白化現象の機構は,水温の上昇以外の要因は不明であった.鈴木氏は,従来ほとんど研究例のないサンゴ内部の共生藻類と微生物シアノバクテリアとサンゴの化学共生の関係,栄養塩循環,有機物動態を研究し,白化現象の原因究明に確実に踏み出し国際的にも注目を集めている.世界で初めてサンゴのストレス―有機物―微生物―ビタミンB12―共生藻類のシステム共生を明らかにした.
よって同氏の業績は海洋化学学術賞に値すると認められた.